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SUPERLOCAL 013 / interview
木田 浩史
反骨のつくる靴
text & photo by Riken KOMATSU
profile / 木田 浩史 Hiroshi KIDA
1974年いわき市植田生まれ。大学卒業後、靴の世界を志し専門学校へ。卒業後2005年にシューズブランド「Hiroshi
Kida」を設立。現在は「nude」「KLASICA」など他ブランドの靴も手がけるなど、そのプロダクツは高い評価を受けている。バー「AYANAI」を拠点にDJ、イベントプロデューサーとしても活動中。植田発の音楽カルチャーを発信している。
自らのシューズブランド「Hiroshi Kida」のアイテムや、国内ブランドとのコラボレーションが高く評価されるデザイナーの木田浩史。いわきを代表するクリエイターの1人だ。自らを「バカ」と呼ぶほど細部までこだわり抜いた靴は、海外でも高い評価を受けている。マーケティングや関係者とのコミュニケーションの容易さを考えれば、首都圏に工房を構えるのがふさわしいようにも見えるが、木田はなぜ、いわきに留まるのか。
―「バカ」が作る靴
ズズッ、ズズッという、分厚い革を包丁で切り裂く音。それと重なるように、軽快なラテンジャズのBGMが流れている。いわき市植田にある木田の工房。時計は、夜7時を示している。靴の美しさとは裏腹の、地味な作業の繰り返し。革と格闘する木田の息づかいに耳を澄ませながら、吐き出される言葉を待つ。そんなインタビューだった。
ここに来てから2年です。その前は、同じ植田の違う場所で、完全な工房としてシャッター閉めてやってました。人が来るのがイヤだったんすよ(笑)。いろいろ言われるのも「めんどくせ」って。いわきのメディアにもそんなに出てないし、こっそりやってたって感じですね。今よりすごく忙しかったし。
今でこそ、併設するバー「AYANAI」で音楽イベントを開催したり、訪れる人を受け入れて自分の靴のこだわりやいろいろなことを話してくれる木田だが、一旦作業に集中すると、タバコを加えながら、瞳の奥に火がついたような目で作業に没頭する。どちらかといえば、こちらのほうが本来の木田の姿なのかもしれない。
木田の靴は、木田本人が「バカ」と言うほど、素材から技法、製法に至るまで徹底的にこだわり抜かれている。しかし、「クラフト作品」のような野暮ったさはなく、精緻な技法と優美さが同居している。履いてみれば足にフィットし、実用的で毎日でも履きたくなるような、確かな履き心地があるのだ。
自分が靴を始めた頃に、ハンドメイドの靴が少しずつ出始めたんです。クラフトっぽいのが多くて、正直あまり実用的じゃなかった。そのうちポール・ハーデンの靴とかがよく売れるようになって、ハンドメイドの靴が評価されるようになりました。でも、それを真似しても、結局二番煎じだから安く出すほかなくなる。それが嫌で、だったらとことん作り込もうと。
例えば、このフィドルバック。土踏まずのところに、足のアーチに沿うように絞り込んで、真ん中の部分を左右方向に面取りするんですけど、これは完全に「職人の技」的なアプローチです。特別に「糸」から作ってるものもあるんですけどね、いやぁ、これはもうホントにやりたくない。まあ今も注文入ってんだけど(苦笑)。
木田は、靴に関して1つひとつ、実に丁寧に話してくれる。初めて木田に会った時もそうだった。製法、こだわり、素材、塗料から道具にいたるまでレクチャーしてもらったことを思い出す。
例えば、使用されている革はすべて天然素材だ。仮にそのまま捨てられたとしても、朽ちて土に帰る。木田の靴は決して安くはないが、私のように靴を理解しない人間も、木田の哲学や靴の価値をよく理解したうえで購入することができる。そのようなプロセスを経ているからこそ、長く愛される自慢の一足になるのだろう。↙
―面倒だ。だからこそ作る反骨の精神。
職人肌の木田も、一時期は、生産性や流行を考えて、ものづくりの手法を変えようと試みたことがあるそうだ。「前の展示会より販売数を増やさなければ」と、バイヤーが好むデザインを意識したという。
しかし、バイヤーはその木田の考えを見抜き、「世の中にない靴を作れば必ず売れる」と叱咤。それ以来、木田は「めんどうな」仕事を続けている。「こんなのやりたくないですよ」と言いながらも。↗
今はHiroshi Kida以外に、「nude」、「KLASIKA」というブランドの靴も作らせてもらってます。KLASICAの担当者からは、最初にお会いした展示会のときに「頭がおかしいヤツがいる。全部自分でハンドメイドで作ってて、大量に注文が入ったらどうするんだろう」って言われてたみたいっすね(笑)。でも、それで逆に興味を持ってくださって、今の仕事につながってるんです。
こないだなんて、縫い目がなくて、ゴムチューブで巻いたように革を巻き付けたブーツがパリに行きました。たまたま中底の接着を固定するのにゴムチューブを巻いて、写真をフェイスブックにあげたんですけど、かっこいいからやってくれと。もうほんとめんどくさい仕事ばっかですよ(笑)!
木田は、手の込んだ技法を「こんなめんどくさいことやりたくない」と言いつつも、だからこそ完璧にやり遂げる。できるわけがないと言われれば挑み、面倒だと思いながら、気づけばひとり作業に没頭し、美しい靴を作り上げてしまう。そんな木田のものづくり、「ストイック」である以上に、「反骨」という言葉がよく似合う。↙
―面倒だ。だからこそ作る反骨の精神。
しかし、その反骨が偏屈な「閉じこもる反骨」ではなく「開かれた反骨」なのが面白い。その変化について木田は、「震災がきっかけ」だったと語る。
震災以降ですよ、オープンにしたのは。都内で震災に遭って、いわきにいなかった。それで変な負い目を感じちゃって。みんな何かしら地元に貢献するような活動に携わってるのに、俺は全然どこの誰かわからないような靴を作っている。妙な疎外感がありました。それで、ここでなんかやるのも1つの手かなって。そこからですかね。
もちろんバイヤーとか靴に関わる人たちは都内に住んでるからコミュニケーションはきついけど、今の時代、アンテナさえ貼っておけば情報は拾えます。モノをつくるってことに関して言えば、いわきでのハンデはないです。
結局、モノありき。いいものを作っていれば、広がっていきますから。まあ唯一不満なのは、夜中まで遊べるところがないことっすね。植田はスナックしかないから(笑)。
現在は、靴をつくり続ける傍ら、編集者のカネコヒデシが展開するプロジェクト「フクミライ」にも積極的に関わり、数々の音楽イベントを企画している木田。隣接するバー「AYANAI」では、自らDJをやりながら、若い世代を巻き込んでさまざまなイベントを開いている。↗
プロデューサーとしての木田浩史。これからどんな活躍を見せてくれるのだろうか。 そんな期待を膨らませていると、木田は机の上に無造作に置かれたタバコに火をつけ、その煙を楽しむともなく、包丁を握り直し、革の切り出しを始めた。さきほどまでの饒舌と打って変わって、工房にはまた静かな音が刻まれていく。ピリっと張りつめていながら、とても贅沢な感じのする、そんな静けさ。
いわきだから、東京じゃないから・・・。そんなことは関係がない。いや、だからこそ、素晴らしいものが作れるはずだし、作らなければならない。自分の存在価値を証明するかのように、そして、いわきを舞台に活躍せんとする若い世代を叱咤するように。無言で靴と対峙する靴職人・木田の姿が、今も目に焼き付いている。(終)
event information
AYANAI presents フクミライ
日時:2013年12月7日(土) 20:00〜26:00
会場:KURATO いわき市平五町目6-1 2階
料金:¥1,500(+1drink)
ゲスト: 渡辺俊美、富澤タク、カネコヒデシ、木田浩史、吉田アゲ子 and more
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