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SUPERLOCAL interview
アサノ コウタ
建築"以下"でつくる 人に寄り添う福島
—地方だからこその「建築以下」
建築以下の設計について、もう1つ、アサノの設計したものを紹介しよう。これは、福島県梁川町にあるお寺の茶室にトイレをしつらえたもので、「雪隠の道」と名付けられたものだ。
当初、アサノのもとに依頼が寄せられたときには、「茶室を壊してトイレを設計して欲しい」というものだったという。しかし、「寺院と茶室、そして庫裏の織りなす景観を守りたい」と考えていたアサノは、茶室を残すべきと考え、茶室の下屋部分にトイレだけがおさまるような空間を提案した。
サイズも、1820mmという規格化されたいわば「DIYサイズ」だ。実際の施工は地元の工務店が行ったため、アサノが当初想定していたものとは少し違うトイレとなったものの、「景観を守るために茶室は残す」というルールは守られた。↗
実は、この空間自体は、建築学生の授業に使われるような簡単な設計でしかありません。それに、地元の工務店さんが実際の施工を行ったので、僕は基本設計図を提出しただけでした。それでも、「茶室を残すことで、景観を守る」という当初のアイデアは守られました。
やっぱり、僕が細かいところまで出ていっても、地縁のある工務店さんが施工することが多いので、僕はそこは放り投げてしまって、アイデアを出すということに徹したほうがうまくいくんですよね。
その意味で言えば、「建築以下の設計」は、東京でも面白いんですが、地方にこそふさわしいんじゃないかなと思っています。地方では、建築家ではなく、昔からの知り合いの大工や工務店にお願いすることが多いですよね。
それに、住宅ひとつ考えても、福島では坪30、40万円でも家が建てられます。東京のような “建築家が設計する坪70万円の住宅” みたいな家は、現実的にはなかなか難しい。
でも、それがダメかと言えばそうではなくって、地縁や人間関係があって安くていい家ができるなら、それはすごくいいことですよね。閉鎖的という面も少々あるとは思いますが、そうした地縁や環境はすごく貴重なものです。だから、それを壊さずに、その間に立つアイデアマンのような存在でいいのではないかと思うようになりました。
アイデアだけ考えてあとは任せてしまおう、といっても、そう簡単にできるものではない。自分が設計をしたものだからこそ、細かなところにまで自分の考えを織り込み、イメージ通りにものを作りたくなるというものだろう。
しかし、アサノはどこまでも躯体だけに想いを込める。まさにそれが、アサノにとっての設計なのだ。だからこそ、「作らなかった人」が思わず「作ってみたい人」になってしまう。そして「作った人」は、やがて「使う人」になり、人の輪が増えていく。アサノの設計は、そこにいる人たちの「やってみたい」という創造性までも設計しているのだ。
そうしてできあがった空間に人が集まれば、それはもはやコミュニティを設計しているとも言えよう。「建築以下の設計」とは、実際のところ「建築以上のものを設計してしまう設計」なのかもしれない。↙
—「建築以下の設計」でデザインされるもの
福島という場所は地縁が強い土地です。でも、その地縁というのは、会社や団体との関係ではなく、まさに「人」との関係なのが面白い。
たとえば、福島市にオプティカルヤブウチさんというメガネ屋さんがあるのですが、何かのプロジェクトをやろうというとき、そこには「メガネ屋さん」ではなく「メガネ屋のヤブウチさん」が強く浮き上がってくるんです。
商業ビルと関係を持つときも、郡山市の「MOLTI」ではなく「MOLTIの伊藤さん」。大都市のように「お店」や「会社」が前に出てくるのではなく、福島だと「個人」なんです。面白いですよね。
だから、福島では誰か1人説得できればプロジェクトが動く。意思疎通のスピードがすごく速いんです。そのスピードの速さは、僕のように個人で動いている人間からするととても力強いし、だからこそ、ほんとうにさまざまな人と出会うことができました。
福島というと、やっぱり自然に囲まれてのんびりとしたゆるやかなイメージがあったかと思いますが、震災後は、とにかく変化のスピードが速くなっています。
でも、こうした「人対人」のスピード感はもともとあったものだし、そのスピード感こそ、震災後の世界に求められるものではないかと思うんです。空間の作り方にしても即興性しても、BHISのスピード感や瞬発力を大事にしながら、「建築以下の設計」を続けていきたいですね。↗
古民家の研究を通して「躯体」への視点を磨き、それが「細分化」の考え方と結びついて、アサノ独自の「建築以下の設計」が生まれた。その設計は、巨大な建造物ではなく、1人ひとりの身の丈にあったスケールに落とし込まれ、常に人に寄り添い、作る人や使う人とともに新陳代謝していく。
アサノのオフィスの名前「BHIS」とは「Beauty Happy Island Studio」の頭文字を取ったもの。つまり「うつくしま ふくしま」をデザインすることそのもの。人に寄り添うデザインを通して、一人ひとりが美しく輝く福島をデザインしていく。アサノは身をもって、福島における地産クリエイティブの1つの在り方を呈示し続けている。
(終)
information
BHIS
〒960-8135 福島県福島市腰浜町1-23 アサノコーポ2号室
TEL : 070-5464-1586 MAIL : casano@bhis.jp
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