FEATURE
三者三様の白と黒
いわき市平で開催されている写真展「トリクローム」は、白圡亮次、上遠野真人、鈴木穣蔵の3人によって企画された三人展。展示がスタートしてからというもの、普段は違う環境で仕事をしていることもあり、一堂に会することはあまりなかったそうだが、この日は、上遠野の仕事場、いわき市平の「YK写真工房」に集まってもらい、展示について話をうかがった。「モノクロ」という限られた枠のなかで、3人はそれぞれ何を写そうとしたのか。
―三者三様の白黒表現
—— 今回の写真展で特徴的なのは、タイトルにもなっていますが「モノクロ縛り」というところ。そもそも、そこに行き着いた理由はどのようなことだったのですか。
穣蔵:そんな深い目的ではなくて、今回、たまたまギャラリーが、モノクロプリント、銀塩写真を残そうという目的で立ち上げられたところだったわけ。それもあって、3人で集まった時「モノクロでいきますか〜」的なゆるい感じで今回の展示になったんだよね。
—— そうだったんですね。今回の作品は、モノクロという縛りがあったからこそ個性が表に現れてきていて、とても懐の深い展示になっていると思います。まずは真人さん(上遠野)の作品ですが、これは過去の作品ではなくて、今回の展示のための撮りおろしになりますか?
上遠野:うん、そうだね。今回の展示のために撮ってきた。みんないわきの海で撮ったもの。タイトルに「砂の景(かげ)」っていう名前をつけてるけれども、もともとこういう陰影の強い写真を撮りたいなと思ってたから、イメージ通りの写真になったかな。
—— 面白いのは、この写真のフラクタルな構造ですよね。砂浜の砂に接写しているようにも、広大な砂丘の上から撮っているようにも見える。スケール感があやふやになるような作品です。
上遠野:そうだね。そういうイメージで撮ってる。実は、行ったことはないんだけど、ナミブ砂漠にずっと行ってみたいなって思ってて、それをイメージしながら撮ったんだ。日中だと陰影が出ないから朝、撮りにでかけていくんだけど、チャンスは太陽が上がってすぐ、ほんの20分くらいしかない。久之浜から勿来まで何回かに分けていろいろと撮影したけど、結局展示されてるのはどれも「河口」で撮った写真かな。
—— なるほど、夏井川の河口付近とかだと、確かに砂が堆積して小さな山のようになっていますね。その砂の荒さのようなザラついた感じも、写真によく出ています。かっこいいですよね。
穣蔵:ほんと、真人さんらしい写真だよね。なんというか、真人さんはお父さんも写真を撮るし、家業としてずっと代々カメラと共に歩んできたわけでしょう。目の前の風景の捉え方やカメラの扱い方が、おれなんかとは比べ物にならないし、この引き出しの多さ。真人さんしか撮れねえよなって、思うよね。
―人を撮る、ということ
上遠野:いやいや、穣蔵くんこそ、自分のなりわいとして「家族のことを撮る」というのをやっていて、すごくいい写真撮るなって思うよ。ありのままの家族写真を残すっていうのは、とても素敵だと思う。おれは、どうしてもこの「写真館」という箱の中で撮らなくちゃいけないし、自分も撮り手だから自分が映り込むこともない。実は、うちの家族も今度穣蔵くんに撮ってもらうことにしたんだよ(笑)。
穣蔵:もともと、家族写真ってすごくプライベートなものだから、「展示」することがふさわしい写真かどうかっていうのもあるわけですよ。家族写真って、「できあがったものを展示して見る」というよりも、「残ってくようなもの」であることが理想だと思うし。でも、こういうのもいいなって思ってもらえるきっかけとして、展示してみてすごくよかったと思います。
白圡:今回の穣蔵さんの写真を見て、すごくジェラシーを感じるのは(笑)、写真のようなポーズや構図を指示できる構想力ですよね。
—— そうですね、家族がみんなで手を繋いだ写真がありましたけれども、あれ、自然にああいうポーズはしないから、穣蔵さんが指示を出しているわけですね。
白圡:そうなんですよ、ぼくも仕事で人を撮ることはありますけど、「はい、撮ります!」と言って撮るわけです。でも穣蔵さんの写真とか、例えば夫婦で撮った写真がありますが、奥さんの手が、ドアの取っ手に巻き付いている感じや、家族が手を繋いでるようなポージング、あれを瞬時に指示できるのがすごいなと思うんです。
—— あるがままを撮っているように見えるけれども、コミュニケーションのやりとり、穣蔵さんと被写体との距離感のようなものが写真に写されるわけですよね。なんというか、家族の絆を可視化する、といったような感覚がありますよね。
―草花のヌード写真
—— 穣蔵さんに対し、白土さんは人ではなく、完全にモノを撮影しているわけですが、どこかに動物的な艶かしさがあるような気がします。
白圡:そうですね、「花のヌード写真」という感じで撮影をしました。
—— どうやってこの独特な裸感を出したんですか?
白圡:実際は、作り込んだというわけではなく、偶然の産物なんです。かなり入念にライティングをし、いろいろ試行錯誤しながら撮影していたとき、たまたま目の前にあったレフ板が倒れてしまったので、あっと思って押さえたら、間違ってシャッターを押してしまって。
—— アクシデントの中から生まれたわけですね?
白圡:ほとんど自分の体が影になって遮光されていたので、部屋の中に光がぽわっと灯っているくらいの感覚で撮れたんです。それがなんかエロくて、いざこれから男女で始まるってときに、「電気消して」って言われて、そして電気を消すと、ベッドに横たわっている女性の裸がぽっと浮かび上がるみたいな、そういうエロさを感じたんですよ。
—— なるほど、その偶然の遮光が、この感じを生み出したと。背景の黒の深さ、そして少し曖昧な輪郭。たしかに、ベッドサイドの電気がエロい感じに裸体を照らしている、といった雰囲気ですね。佇まいの柔らかさは、ほんとうに女性的です。
穣蔵:三人それぞれ撮影の仕方も出力の方法も違うから、どうしても個性というか作風が濃く出てくるよね。例えば、おれはアナログのカメラで撮影して、印刷もアナログな印画紙にしているけど、真人さんはデジカメで撮影して印画紙に印刷していて、亮次くんは、カメラも印刷も両方デジタル。撮影の違いだけじゃなくて、出力も含めての「作品」。みんなそれぞれイメージに近い作品が撮れていると思うし、いろんな人に見てもらいたいな。
―いわきのフォトカルチャーに一石を投じるか
—— いわきって写真愛好家は多いと思うんですが、どちらかというと、年配の方のグループ展などが多く、「若手」とカテゴライズされるような作家の展示はとても珍しいものになってしまっていると思います。その意味で、今回の展示はカルチャーに一石を投じるような動きにあたると思うんです。
白圡:ギャラリーの都合もあるのかもしれませんよね。通常、ギャラリーっていわゆる「商業ギャラリー」なわけですから、そこで展示されるのは「売れる作品」ですよね。でも、写真ってあまり「買う」っていう境地に来れていない気がします。だから、そもそもギャラリーのほうでも写真展を企画しないんだと思います。
穣蔵:今回は営業目的ではないからできている、という面もあるよね。たくさん費用がかかるわけではない、でもこれだけいい環境で展示できてとても心強いよ。コールピットは、高校生たちに援助をして暗室を作ったり、いろいろなアドバイスをしたりもしてて、すごく価値のある場だと思う。
—— こういう場があって、展示を繰り返し続けていくことは、我々よりももっと若い世代にも影響があると思います。やっぱり若いときって金もないから、金をかけずに展示するほかなくて、カフェとか雑貨屋さんに即興的に展示するほうを選びがちだけど、やっぱり断然ギャラリーのほうが写真と向き合えます。今回は、自分の写真を展示する方法論を提示するという意味でも、とても有意義な作品展になりましたね。
上遠野:そうだね。こういう展示がもっと当たり前になると、「写真を撮る」ってところだけじゃなくて、「出力する」ってところまで味わえると思う。やっぱり写真って自己表現だし、残していくものだから、データでしまっとくのは勿体ないよ。
穣蔵:自分で言うのもなんだけど、改めて、写真の本来の意味というか、保存する、記録する、残すっていうところを、さらに深く感じられた展示になったと思う。撮って終わりではなくて、出力を含めての写真の表現。その面白さが、もっとたくさんの人に伝わればいいな。
(終)
profile
上遠野 真人
いわき市平の「YK写真工房」を仕事場に、さまざまな作品を世に送り出す。
2010年創刊の「福島美少女図鑑」でも撮影を担当したほか、NHKの文化講座などで講師としても活動している。
いわきの写真クラスタの兄貴的存在。
鈴木 穣蔵
1976年いわき市植田生まれ。いわきでは数少ないフリーカメラマンとして活動中。
「アリオスペーパー」では長く表紙の撮影担当として携わるなど、いわきのクリエイティブシーンに確かな足跡を残しいる。
白圡 亮次
1981年いわき市四倉生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業後、大阪でキャリアをスタート。
いわきに戻った現在は、印刷会社に勤務する傍ら、創作活動を行っている。
information
Trichrome -トリクローム- 三人展
会期:2014年1月12日(日)〜2月2日(日)
開館時間:9:30〜18:00
会場:ギャラリー コールピット いわき市平字紺屋町45紺屋町ビル3階
電話:0246-38-3152
URL : http://www.coal-pit.or.jp
text & photo by Riken KOMATSU
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