FEATURE
萌えてます。小名浜工場夜景
海や水族館があるだけが小名浜ではない。今密かな話題を呼んでいるのが、小名浜の工場夜景だ。今回の特集では、いわきフラオンパクのオープニングプログラムとして開かれた「小名浜工場夜景撮影&カフェめしツアー」をフィーチャー。退廃的な美しさを誇る小名浜の夜の一幕をご紹介する。
2月26日、午後6時。晴天。小名浜の工場地帯に一台のマイクロバスが走る。颯爽と産業道路を走るそのマイクロバスには、総勢20名の大撮影団!! 申し込み開始3日でチケットは売り切れ。開催前から話題を呼んだ小名浜工場夜景撮影ツアーの一行は、ドキドキとワクワクを胸に約2時間のナイトクルージングへ。
最初の目的地は、小名浜が誇る石油コンビナート。その全景を見下ろすことができる大畑公園の展望台を目指す。闇が深まる中、ぼんやりと浮かび上がる小名浜の工場地帯。市街地を遠くに見渡せるこの場所は、隠れた小名浜工場夜景の名所なのだ。
幣誌tetoteでも何度か小名浜の工場夜景を紹介してきたが、20名もの参加者がこの展望台に上るなどということはおそらく初めてのことではないだろうか。これだけ多くの撮影者がファインダーをのぞきシャッターを切っていく姿は異様ですらある。しかしそれは、確かな興奮を伴うものだった。日常の世界にはあり得ない圧倒的なスケール。独特の退廃的な存在感を味わうには、格好の場所である。
続いて一行が向かったのが、小名浜の工場地帯でもっともフォトジェニックと評判の日本海水小名浜工場。銀色の光を跳ね返す壁や入り組んだ配管はいかにも工場夜景にふさわしい。蛍光灯の数も多く、他の工場に比べて撮影しやすいのも同工場の特徴だ。静と動が複雑に入り交じる異空間のスケールに、一同言葉を発することを忘れ、無心にシャッターを切る姿が印象的だった。小名浜の工場地帯は人を呼ぶ力がある。それを実感する瞬間だった。
紅白の煙突が印象的な東邦亜鉛。小名浜臨海鉄道の宮下駅、日本化成、小名浜港を経て、ツアーは待ちに待った夕食へ。会場は、小名浜三崎公園にある人気カフェのUluru。マスターのこだわりが溢れた店内の雰囲気が評判のお店だ。そこで、今回のイベントのためだけに作られたオリジナルメニューを食する。
材料を提供するのは、これまた小名浜の人気鮮魚店さすいち。この日は、レストランの総責任者の小野嘉子さんも会場入りし、自ら料理の盛りつけを行い、参加者に自慢のメニューを振る舞った。板前さんと激しい議論を重ねて開発したという、この日のためのメニュー。小名浜でとれたものだけを使用したこだわりの一品だ。
食事の時間は、カフェでのゆったりとした時間を楽しんでもらいたいと、長めの2時間を設定。偶然隣り合った人たちと写真やカフェについておしゃべりをしながら思い思いに楽しむ。この「交流」の時間も、こうしたイベントには欠かせないものだ。
また、この日は、小名浜に誕生する予定のクリエイティブスペースUDOKのメンバーが作成したオリジナルPHOTO ZINE「Snoof」が参加全員に配られた。このZINEは、小名浜の工場夜景の写真を中心に、小名浜について書かれたエッセー、ドローイングアーティスト丹洋祐の作品などを集めて自費出版された。これだけ小名浜にフォーカスしたZINEも珍しい。
工場夜景撮影、食事、カフェタイム、写真集と、楽しめるツボの多いツアーだけに、3月26日に行われる第2回もすでに満席となっているこのツアー。新聞やテレビといったメディアでもさっそく取り上げられるなど、新しい「いわきの名所」として大きな注目を浴びている。
市や観光協会などが先導して工場夜景ツアーを押し出していければ、アクアマリンや魚介料理など、既存の小名浜の観光資源に継ぐ新たな魅力として打ち出していけるはずだ。この日の参加者の様子を見るかぎり、その可能性はかなり高いと確信した。
一方で、明るくライトアップされた工場が少ないことや、高い壁があるため中の様子が見えにくい工場も多く、バックヤードの開放など、工場側にも理解と協力が求められる。工場が生産しているものを市民に理解してもらう「広報」の立場から言っても、官民一体となった観光資源開発を目指しても面白いかもしれない。
いずれにしても、小名浜の工場地帯に、日常では感じることのできないスケールの景色が広がっていることは確かだ。ぜひあなたの眼で、小名浜の新たな魅力を堪能して欲しい。
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