FEATURE
なおしてみんかを考える
築200年の古民家修復作業が行われているいわき市中之作の「清航館」では、今夏、修復のための大型ワークショップ「なおしてみんかプロジェクト」が開催されている。「なわもじり」から始まり、「土壁の泥づくり」、「竹子舞づくり」など、いずれも地域の住民が参加して修復作業を行おうというもの。「中之作の家」の夏に注目だ。
7月29日に開催されたのが、土壁を作る際に材料となる泥をつくるワークショップ。プロジェクトでは、この日のために石川県から大量の土を調達。土を丸く敷き、「もんじゃ焼き」をつくる要領で土手をつくって、そこに水を流し込む。それだけでは泥にはならないので、自分たちの足や鋤をつかって水と土を混ぜ、泥を作っていくのだ。
この日は、市内の有志15名ほどが集まり、ワークショップに臨んだ。くるぶしまで埋まる泥に、参加者たちは歓声を上げながら足を突っ込み、泥をぐんぐん混ぜていく。さらに、そこに藁を切ったものを混ぜ込んでいくと、土壁の材料ができあがる。混ぜれば混ぜるほど、どんどん重みを増していく泥。夏の空のもと、参加者たちは汗だくになりながら泥を混ぜていった。
「ただの素材を作るだけなのに、こんなに大変な作業とは思わなかった」と語ったのは参加者の1人。日本の伝統家屋で当たり前のように使われている土壁だが、そこには、先人たちの知恵と多くの手間がかけられている。手間がかけられているからこそ、そう簡単に壊すわけにもいかないし、そう簡単には壊れない。そして、地域の人たちと一緒に作ればこそ、強い愛着も湧く。
プロジェクト主催者のひとり、豊田設計事務所の豊田千晴はこう語る。「素材を作るだけでもすごく労力が要る。普通に暮らしているとわかりにくいですが、家を建てるというのは、ほんとうに手間がかかります。それを体で実感することが『今ある家は壊してはいけない』という気持ちを呼び起こすんじゃないでしょうか。直せば使えるのなら、直すほうが賢いし、優しい選択だと思います。この家では、そんな価値観を伝えていきたいですね」。
これに続いて8月5日に開催されたのが、竹小舞をつくるワークショップ。「竹小舞(たけこまい)」とは、藁縄で竹を編んだ格子のことで、土壁の下地となる。耐火性、耐震、断熱、調湿性などに優れた竹小舞の土壁は、日本の気候風土に根ざした日本伝統の建築だ。職人のもと、参加者全員で細い竹を格子状に組み合わせ、1つひとつを藁縄で接続していく。気の遠くなるような作業だが、家を支える大事な基礎となる部分だけに、誰ひとり手抜きせずに、真剣なまなざしで作業にあたった。
一方、「ガチンコ」になりがちなワークショップを和らげようと、今回は竹をつかった流しそうめんも登場。これには参加者一同、大きな歓声を上げ、つるつるの麺でのどを潤した。みんなで体を動かしながら家と向き合い、さまざまなことを学びながらも、こうして夏の風物詩を味わう。中之作の夏を存分に味わえるワークショップになったようだ。
中之作プロジェクトの会員であり、建築を生業にするたんようすけは、今回のプロジェクトについてこう語っている。「刈り取った稲が藁縄になって建築に使われたり、農機具である鋤を使って土壁の材料が作られたりと、日本の建築というのは、やはり農業のある暮らしに根付いているのだと痛感しました。家を通して、食べることと住むことがしっかり結びつく、その一端を見ることができました」。
「田舎暮らし」といった言葉で総括できるような流行もあるが、地方ならではの暮らしというのは、想像以上に地道な作業のうえに成り立っていることに気づく。1人では、到底家はできない。しかし、その地道な作業を地域で共有するからこそ、地域全体を「家」と考えられるようになる。コミュニティは家づくりから。中之作の家「清航館」の修復が少しずつ完成に近づくたびに、プロジェクトが伝えようとしている本質も明らかになっていくのだろう。ますます目の離せないプロジェクトになりそうだ。
information
中之作プロジェクト
http://toyorder.p1.bindsite.jp/nakanosaku/
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