rain or shine
Re:write vol.16 / text by Yokochi, illustration by たんようすけ(からみほぐし研究所)
車体をカタカタ揺らしながら、デコボコ道をひた走る。
「ここが三崎公園だよ」。
「すっごい広いね」。
「お酒とか食べモノとか持ち寄って、ピクニックとかするの」。
「うわ、いいな~」。
梅雨真っ只中の、とある土曜日。
久しぶりの友人との再会に高揚しながら、会話も車も軽快に弾む昼下がり。
街を車で走るなんて大学生活ぶりだ。
授業後に港まで連れて行ってもらったこともあったなぁ、なんて思い出しながら、
ペーパードライバーの私は、当時から変わらず今も助手席に座っている。
時折、雨は止むものの、気持ちとは裏腹に、この日の空はグレーに染まっていた。
車はわたしたちを小気味よく揺らしながら、海岸沿いへといざなった。
広がる廃墟と空虚…
あれ?
突然タイムスリップした。
色彩を失った。
がれきで埋もれた道。
草臥れた壁。
1階だけが食い流されて、アンバランスに残った建物。
かろうじて残された柱。
かつては家であったであろう痕跡をまばらに残した家並み。
原型をとどめない車。
撤去され、荒々しく残った殺風景な眺め。
微塵になった生活品。
ゴミの集積所と化した運動場。
津波と共に火事にも見舞われた場所は、3ヶ月以上も経つ今もなお、
焦げた臭いを漂わせている。
ぬいぐるみが、焼けこげになった顔を覗かせても、
かつての住人たちが送った生活の痕跡は一切ない…。
それでもなお、苦しみ抜いて黒くなった木は、体をよじりながら生きながらえている。
雨粒が傷跡にズキズキと染み込んでいく。
これが2011年6月25日に私が見た福島県いわき市。
初めてこの地に足を踏み入れ、そして見た景色だった。
過去は知らない。私の記憶はここからしかない。
この場所はかつてどんな場所だったのだろうか。
どんな人が住み、どんな街色をしていたのだろうか。
…それを探ることに価値なんてないだろう。
この現状を受け止め、胸に刻んでおこう。
そうして、ここから歩いていこう。
始まり。
起きた悲劇を伝えるにはもう遅かった。
今はもう、前に進んでいるのだ。
今だからわかることがある。
現状から抜け出したかったのは、他の誰でもない、自分だった。
だけど、ここに来てみたら、抜け出せることに気づいた。
直感は教えてくれていた。
何ができるかわからないけど、何もできないと思っていたけど、
小名浜に何かがあるはずと。
そして私は感じたよ。
ここに住んでいる人がいる。
生活がある。
街の人たちも笑顔を取り戻せてきていた。
虚無感を味わって、真の強さが生まれていた。
この場所だからできることがある。
ここだから集まる人がいる。
そして偉大なパワーに巻き込まれながら、
大きな明るい光が、グレーの空をどんどん真っ白にしていくんだ。
みなぎるエネルギーが強い意志を紡いで、
鮮やかな色彩を創っていくんだ。
その勢いは、広がって、どんどんつながっていく。
逆境は、チャンスだ。
まだまだ、悪い方にしかマスメディアは動いていない。
それでも脱出する道は必ずある。
きっと突破口が一つ見つかれば、フォーマットができる。
型ができれば、それを真似てみるみるうちに広がるはず。
いい流れが潤いで満たしてくれるはず。
だってここには、始まりが溢れているから。
2011.7.19 up
profile yokochi
愛知県名古屋市生まれ。東京在住。
名古屋市立桜台高等学校ファッション文化科、名古屋服飾専門学校ファッションビジネス科を卒業後、上京。EFAP
JAPONにてアタッシェ・ドゥ・プレス(広報)を学ぶ。現在はプロモーションやイベントを手がけるプロデューサー(の卵)。ファッションから始まり、建築・インテリア・プロダクト・グラフィック…あらゆるデザインをこよなく愛す。
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