ESSAY
思う 思い
text by mitsunori / posted on 2012.5.3
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東京に暖かな日ざしがさす。
この日ざしは小名浜の海をどう照らしているだろうか。
小名浜の空にはかもめがたくさん飛んでいるだろうか。
つながっている空を見上げる。
いろんなことがあった1年が過ぎた。
考えてわかることなどほとんどなかった。
どうすればいいのか、何ができるのか。
あの日は東京にいた。
震災後、何度か小名浜に帰ったけれど、俺は、あの日も、あの日からの大変さも知らない。
東京から被災地を見ていただけだ。
そのことに、後ろめたさがある。申し訳のないような思いがある。
被災地出身で、家族が被災地で暮らしているとは言え、
自分は東京でぬくぬくと生活している。
震災のことなど考えずにも生きていける毎日。
見えていないことがいっぱいある。
何かを言っても、それは東京からの言葉でしかない。
思いを口にすることは難しかったし怖かった。
誰かを傷つけそうな気がして慎重になった。
たぶん自分も傷つきたくなくて臆病になった。
ぐるぐる回った言葉を飲み込んだ。
生命、故郷、日常。震災で失われたたくさんのもの。受けとめねばと思っていた。
できることなら共感したいと思った。出来るはずもなかった。
小名浜も大きな被害を受けた。
小名浜のことがいちばん心配だった。
しかし、現実を知れば知るほど、小名浜のことや自分のことばかり言ってられない気持ちにもなった。
東京には被災地との温度差があった。
そこで暮らす自分。居場所がないような感覚。
職場で震災や被災地の話をしても、話が合わない、続かない。
浮き上がっていた。いらいらした。
それでも東京にいた。宙ぶらりんな自分のまま。
光が減った東京では至るところに「節電中」の貼り紙がはられ、
「がんばろう日本」の声があふれていた。
何もできず、どうしたらいいのかわからぬままに1年は過ぎた。
震災の記憶が東京の風景や生活と強く結びついているのは悔しい。
あの日の揺れも小名浜への思いも、
不安も怖れもそのほとんどは東京からの記憶として残っている。
電車の中、駅、職場。あの日以来、東京のいろいろな場所から小名浜へ思いを馳せた。
あの日、小名浜にいたかったと思うこともあった。でも仕方ない。
震災を東京で迎えたのは運命なのだと、そう思う。
震災で傷ついた故郷を、離れた場所から見つめることしか出来なかった運命。
1年が過ぎて、震災に向き合うことは、これまで以上に、自分と向き合うことになっている。
考えれば考えるほど自分の未熟さや傲慢さに突き当たる。
過ぎた時間への後悔。不甲斐なさ。嫉妬。よく思われたい思い。
そんな壁の前でうろうろしている。
震災1年後の3月のある日、小名浜の海を見ていた。
水面は穏やかに小さな波を立ててゆらゆら揺れていた。
潮のにおいがした。この海が好きだと思った。
この街がずっとこの街だといいなと思った。
単純な思いがわき上がってきた。すっきりした。
小名浜を思っていく。身近な人たちを大切にしていく。自分自身も含めて。
それだけでいい、そこからでいい。
それさえも簡単なことではないのだろうけれど。
いろんなことを、許し、受け入れていく。
今までのことも、これからのこともぜんぶ。
小名浜の海を見ていてそう思った。やさしい海だった。
離れた場所から小名浜を思うことは、
たとえば離れて暮らす恋人を思うことにちょっと似ているかもしれない。
大変な時にそばにいたいけれど、そばにいれない。
いろいろしてあげたいけれど、離れているから出来ないことが多い。
心配だけがつのる。嫉妬もしてしまう。
だけど、その人を思うと力がでる。
離れている大切な人のためにも、今日を大切に生きようと思う。
震災は今も続いている。考えるべきことは山のようにある。
東京から遥か小名浜の海を思う。
迷った時には、思う。
東京から小名浜を思えば思うほど、
ここが小名浜じゃないことが強く意識されることがある。
そんな時には「日本」を思ってみる。
「日本」という視点に立って小名浜を思うと、
今ここでやっている日々のささいなことが小名浜につながっている実感が持てることがある。
小名浜がすぐそばにあるように思える。
少しずついろいろなものを取り戻している小名浜。
消えていった風景も多い。
それぞれの街にあるそれぞれの痛み。
数字で計ることも時間で語ることも比べることもできない。
この街を思う。
それぞれの故郷を思う。
大好きな街とそこで暮らす人たちを思う。つながるもの。
小名浜は小名浜にしかない。
自分も自分でしかない。
大したことはできないけれど。
小名浜を思っていく。
最後になりましたが、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。
そして被災地に生きる皆様に、いいことがたくさんありますように。
文章 mitsunori
いわき市小名浜生まれ。湯本高校卒業後、大学進学のため上京し、現在も東京在住。
いわゆるアラフォー。現在は立川にてサービス業に従事している。
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