久しぶりに自転車に乗ること15キロ。子どもの頃のように身軽にはいかなくても、春の温かい日差しを浴びながら、ゆったりと4時間をかけて小名浜を巡る。探検気分で隠れた名所を探そうという「小名浜秘境探しチャリツアー」は、小名浜のまた別の一面を垣間みれる、魅惑のアドベンチャーツアーとなった。
このチャリツアーを企画したのは、小名浜の土着アートプロジェクト「OAM(小名浜アート盛りつける)」。OAMでは、これまでも小名浜の景観をスケッチするイベントを開催したり、まちなかに隠れたアート性の高い看板やキャラクターを発掘、作品化するなど、アートの視点で小名浜を楽しむ取り組みを続けてきた。
今回のイベントの目的は、まちなかに隠れた「超芸術トマソン」を探し出すというもの。「超芸術トマソン」とは、存在が芸術のようでありながら、その役にたたなさ・非実用性において芸術よりも芸術らしい物のことを言う。赤瀬川原平によって策定されたもので、超芸術の中でもとくに不動産に属するものを「トマソン」と呼ぶ。
小名浜の町内に存在するトマソンを、チャリによって探そうというのが今回のツアーである。参加者は7名。朝9時に小名浜のUDOK.に集まり、一路工場方面へと向かい、トマソンや奇景を探しに向かった。
今回のツアーで1つのポイントなったのが「公園」だ。「以前、偶然通った公園がとても面白く感じられて、改めて自転車で巡ってみると、各地に個性的な公園があることがわかったんです」。主催者の高木市之助はそう語る。人がいるところに必ずある公園を起点にすることで、日々の生活に埋没した奇景を探し出そうというわけだ。子ども集まりそうな場所で「子どもの目線」を獲得する仕掛けとしても面白い。
今回巡った公園の中で群を抜く存在感を見せたのが、小名浜製錬所そばの「渚公園」。とても広々として、こんな公園が東京にでもあろうものなら、連日たくさんの人で賑わいそうだが、近くに工場群があるためか、工場の発動機の音が響き渡り、煙突から輩出される水蒸気があたりを薄く覆っていて、人通りもなく閑散としていた。
しかし、公園の背後にある工場のパノラマは「異次元空間」を感じさせるのに充分で、まちなかの公園とは比べ物にならない「ヤバさ」を醸し出していた。公園自体はなんの変哲もないオーソドックスなスタイルだが、公園そのものが画一的な規格品なので、周囲の風景の干渉を受けてしまうのだろう。渚公園は、公園自体が秘境と言っていいかもしれない。
今回のコースは、小名浜本町から臨海鉄道沿いに宮下、渚、東芳川と巡り、藤原川沿いを大原、住吉方面へと向かった。途中、参加者の自転車がタイヤごとパンクしてしまうというトラブルもあり、コースの短縮を余儀なくされたものの、朝9時半のスタートから昼食を挟んで午後2時まで。たっぷりと15キロのコースを巡ることができた。
本来の目的だった象徴的な「超芸術トマソン」を見つけることはできなかったものの、藤原川沿いでは、長く使われることなく朽ち果てようとしている水門がいくつもあり、参加者がしきりにカメラを向けていた。絶壁の前で見つけた鳥居は、その絶壁の奥に絶対になにかありそうな雰囲気を残しつつ、来るものを拒むように屹立していた。
小名浜といえば「海」や「港町」の雰囲気が強いが、山よりのコースを選んだため、海辺では見ることのできない白鷺を見つけたり、野生の雉子を見つけたりと、普段とは違った風景を楽しむことができたのも興味深かった。海から工場へ。工場から山沿い、川沿いへ。小名浜を「面」で楽しめるのも、チャリならではの効能だろう。
今回のツアーは、純粋に写真撮影を楽しむだけでなく、まちの景観保全や観光資源の掘り起こし、公共物の有効活用など、まちづくりについて考えるきっかけも与えてくれた。公園や川など、普段の生活に埋没してしまっているものを敢えて「楽しむ」という逆転の発想が、その効能を生み出すのだ。
それは、参加者が「生活者」と「観光客」という2つの視点でまちを見直すことができるからだろう。小名浜での暮らしを楽しみながら、「面白いもの」も「改善すべきもの」も両方見つかる。今回のような地元民参加型のワークショップは、小さなきっかけではあるが、地域づくりの大事な端緒となっていくはずだ。
今回撮影された秘境写真は、小名浜本町通り芸術祭に出品するため、1冊の写真集にまとめられるとのこと。普段は見られない小名浜のもう1つの顔が見られる興味深い写真集になることだろう。どんな奇景が飛び出すのか。完成が今から待ち遠しい。
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和 (日曜日, 19 5月 2013 22:53)
はじめまして。
2010年から2年間、ヨルダンで美術教師をやっていた
和さんです。
帰国後は、地元の岡山で行われていた芸術祭のお手伝いを
させてもらっていました。
今は、二本松市在住。
小名浜の芸術祭、興味があります。
またおじゃましますね。