いわき市在住の表現者が浜辺でそれぞれの「表現初め」をしようというイベント「うぶなみ」が1月4日早朝から永崎海岸で行われた。海の風景や音を借景に繰り広げられた新年の事始め。参加者たちは、永崎の海にさまざまな思いを寄せながら、思い思いにそれぞれの表現を繰り広げた。
イベントが始まったのは、日の出前の早朝6時。水平線が少しずつ赤く染まり始めた太平洋をバックに10枚の白いパネルが並べられ、主催者のドローイング作家untangle.が最初の「表現初め」を行った。今年の干支「巳」に似せた線を引きながら、参加者が一年の抱負を書き込む「書き初め」のスペースを作っていく。
日の出の時間とともに集まった参加者はおよそ10名。自由に筆を取り、白いパネルに今年一年の抱負をパネルに書き込んでいく。はじめは真っ白だったパネルが、少しずつ線と言葉で埋められていく。打ち寄せる波の音。カモメの鳴き声。自然の音や力を体に感じながら、白いキャンパスと向き合った。
この日は、音楽に携わる表現者も来場し、ジャンベやディジュリドゥ、木琴、アコーディオンなどを持ち込んだ。演奏者だけでなく、楽器を演奏したことのない来場者もそれぞれに手ほどきを受けながら、即興的に音を奏でていく。波の音やカモメの鳴き声なども交じり、豊かで楽しげな音が海岸に響き渡っていた。みな、表現の「楽しさ」をそれぞれに味わったようだ。
参加者の1人は、「普段は自分の部屋でやることが多いので、こうしてみんなで集まってやることができて余計に楽しかった。風は冷たかったけれど、解放感もあり気持ちがよかった」と笑顔で答えてくれた。自然の中での一体感。自然の厳しさを共に体感することで、それは高まる。参加者同士のゆるいつながりを作るうえでも、こうしたイベントは多いに参考になる。
また、こうした表現活動は、アトリエやスタジオ、自室などでやることが多いが、公共の場所にはみ出していくことで、地域の人たちとのコミュニケーションが生まれていく。今日も、犬の散歩をしていた人たちがやってきては参加者と言葉を交わしていた。それが地域の人たちに認められることに繋がり、活動をより地域に密着したものにバージョンアップしてくれる。
一昨年の東日本大震災で大きな被害を受けた永崎海岸は、砂浜の整備や周辺道路の補修などがまだ終わっていない。震災の爪痕があちこちに残り、かつての賑わいの面影は失われたままだ。「客の見込めない観光地」として完全に定着してしまえば、賑わいを取り戻すのは余計に難しくなってしまうだろう。
そこで、地元の人間が積極的に地元の公共スペースを利用していくことが求められる。今回の「うぶなみ」のような住民企画型のイベントを繰り返していくことが、時間はかかるが何よりの薬ではないだろうか。地元の人が地元の公共空間を自己完結的にどんどん使うこと。その内輪の賑わいが、まず必要だ。
はじめての開催ということでイベントとしての粗さも目立ったが、企画の細部を入念にしていくことで、小さなうぶなみは、いわきの地産クリエイティブシーンを創る大きな潮になっていきそうな予感がする。企画に携わる1人として、この企画を大切に育てていければと思う。
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