新しい年の3月11日ではなく、「あの日」から途切れることなく続く「2011年15月11日」をテーマにした写真展が、中之作の古民家「清航館」で開催されている。古民家で、震災を扱う写真展を企画した意図を、主催した小名浜出身のインテリアデザイナー矢口健成に聞いた。
text & photo by Riken KOMATSU
永崎海岸の朝焼け、生まれたばかりの赤ちゃん、友人の笑顔、浜辺で砕ける波、、、写真に写されているのは、それぞれの「2011年15月11日」。40点あまりの作品は、地元いわき市内からだけでなく、県外に住む小名浜出身者や、震災ボランティアなどを通じて小名浜と関わった人たちからも寄せられている。簡潔で自由度の高いテーマだが、別の誰かの15月11日を共有したり見比べたりすることで、新しい視点で震災を考え直すことができる。そんな「きっかけ」に溢れた企画展だ。
「写真は誰でも簡単にできる行為ですが、何をどう切り取るかにその人の個性や考え方が強く表れます。そういう写真だからこそ、自分の思い出や記憶を探りながらシャッターを押すことで、その人だけの15月11日が見つかるのではないかと考えました。ですから、展示することももちろん重要なのですが、それぞれの撮影者の気づきが重要という意味では、撮影の時点で目的の大半は達成しているともいえます」。主催者の矢口健成は、企画の意図についてそう語る。
撮るという行為を通じて、普段は目にとまることのなかった景色がファインダー越しに見つかることがある。写真に保存しようと思うからこそ、より美しく感じる景色もある。撮影者は、撮影を通じて自分に問う。あの震災が気づかせてくれたものは、何だろうかと。その自問の答えが、写真に保存され、そしてまた、誰かの写真を見ては、自分に問う。
人によって見つけた答えは違う。だから、見る人によっては、辛い記憶を呼び覚ましてしまう写真もあるだろう。しかし、写真のどこかに温もりがあるのは、会場となっている清航館そのものが「再生」のシンボルだからかもしれない。太い梁、力強い柱、手に馴染む漆喰。津波を受けた民家ではあるものの、200年という歴史の重みが、震災という大きな傷をしっかりと受け止めているようにも感じる。
「どういう形であれ、古民家を使うことが保存活動に対する支援になると考え、こちらで開催させてもらったのですが、15月11日というテーマと、津波から復旧へ向かう建物の2つが一体になった感じがしました。作品と空間が別物になることなく、気持ちや感情も建築の要素になり得るのだと気づけたことは、すごく収穫になりました」。古民家での開催に、デザイナーとしても手応えを感じたようだ。
展覧会には、主催者である矢口の苦悩も透けて見える。「帰るに帰れない日が続いて、故郷のために何かがしたいとずっと思い続けてきました。小名浜で生活する人たちと行動を共にすることができない現状に、苦しさを感じたこともあります」と矢口。被災者でもなく部外者でもない、「被災地出身者」というアンバランスな立ち位置が、「撮る」という直接的な行為を引き出したのかもしれない。
そんな矢口の思いがつながり、在京のいわき出身者や、ボランティア経験者たちも続々と支援の手を差し伸べ、こうして盛大な写真展となったことを考えれば、展覧会そのものが参加者の「15月11日」となっていると言えるのではないだろうか。ぜひ、その「15月11日」を共有し、今一度震災を考えるきっかけにしてみてはいかがだろうか。写真展は、3月11日に引き続き、17日、18日にも開かれる予定。最終日には、映画上映会も企画されている。
information
CircleGame展 in ONAHAMA
会期:平成24年3月11日(日)、17日(土)、18日(日)
時間:11:00~16:00
(最終日は15:00までとなり、15:30より建物1Fにて『カモメの視線』を上映)
場所:いわき市中之作字川岸10「清航館」
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