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地元の人間だから知っていることもたくさんあるけれど、地元の人でも意外と知らないというものも多い。そんな隠れた地域の宝物をサイクリングを通じて再発見していこうというイベント、「小名浜ぶらチャリ 激渋小名浜寺社仏閣巡り」が2月19日に開かれた。もちろん tetote onahama もこのツアーに参加。小名浜から中之作まで往復15kmの「温故知新」の旅を振り返る。
text & photo by Riken KOMATSU
いきなりだが冒頭の写真、どこから見下ろしているか知る読者はいるだろうか。これは、中之作町内のとある細い路地をあがり、さらに山道を歩いてたどり着く小高い丘の上から撮影したものだ。丘の上にには海を見守る神社もあり、静かなパワースポットとなっている。筆者自身何度も中之作を訪れたことがあったが、当然このような絶景ポイントがあることなど知らず、この景色を見たときには、あまりの大パノラマの美しさに、しばし言葉を失ってしまった。こんなに美しい景色は、地域の宝物である。
そんな大発見だらけの今回のサイクリング。企画したのはいわき市鹿島の豊田設計事務所。この日は、設計事務所スタッフの豊田千晴が案内役を担当し、女子目線で、小名浜から中之作の隠れたパワースポットを巡っていく。参加者はおよそ15名。日ごろから日常的にサイクリングしているロードバイク乗りから、買い物程度にしか自転車に乗らない普通のママチャリ乗りまで多種多様だ。コースは、小名浜銀座商店街のスペースUDOK.を出発点に、神白地区、永崎海岸と抜け、中之作を折り返し、小名浜へと戻るおよそ15kmとなっている。



小名浜町内を抜けると、海に面する山間の「神白(かじろ)地区」がある。神白地区は、古くより鉱泉の出る小さな湯治場として知られる歴史ある町。観光名所などもあまりないためか、小名浜中心部から比べると寂れた印象もあるが、海にも山にも面しており、小名浜の豊かな自然を感じるには最高の土地だ。今回のサイクリングでも、神白の御霊神社という古い神社を訪ねた。うっそうと生い茂る山の上にひっそりと佇む神社。そこだけ時間が止まったような空間が広がっていた。
続いて永崎海岸沿いをサイクリング。このあたりは少しスピードを上げ、サイクリングを純粋に楽しむ。途中、浜辺に寄り、海を眺め、風を感じ、自然をダイレクトに味わう。永崎海岸沿いは、東日本大震災で大きな被害を受けたものの、昨年秋頃から少しずつサイクリングのライダーが戻り始めている。海の汚染による海水浴客減少も予想される中で、こうしたライダーたちの保護は、いわきの観光を考える上で大事なポイントになっていくのではないだろうか。


今回のツアーを企画した豊田設計事務所では、現在中之作で進めている古民家再生事業の傍ら、サイクリングの普及活動にも力を入れている。今回案内人を務めた豊田千晴は、「自転車に乗ることで、車に頼らない社会を目指すだけでなく、地域の観光資源の掘り起こしにつながる」と言う。車では通り過ぎてしまうだけの景色が、自転車であれば目にも留まるし、何より小回りも利く。また、歩くよりも行動範囲が格段に広くなるため、点ではなく線で、観光資源を再発見していけるのだ。
「自転車ならば、四季の風景や、太陽、風といった自然そのものをより楽しむことができます。日射時間も多く、晴れの天気が続くいわきだからこそ、自転車の醍醐味はもっともっと膨らむのではないでしょうか」と豊田。サイクリングによるツーリズムを放射能汚染や風評被害で苦しむいわきの観光産業の起爆剤にするという期待もあるだけに、豊田たちの仕掛けるサイクリングイベントには大きな注目が寄せられている。
今後については、「サイクリングというとどうしても男子の部活のようなイメージが強いのですが、もっと気軽に参加してもらえるよう、女子をメインにしたツアーも考えていきたいです」とのこと。建築、写真撮影、パワースポットなどさまざまなキーワードを持ち込みつつ、女子のライダー獲得を狙う。近い将来、サイクリングを楽しむ女子の姿が、今後あちこちで見られるようになるかもしれない。

今回参加したのは、いずれもいわき市内に在住する人だが、皆が「こんなところがいわきにあったんだ!」と驚きの声を上げているのを見るたびに、こうした「地元の人が楽しむ地元の旅」の大切さに気づかされた。「いわきには何もない」と隣県に遊びに出てしまう人が多い中で、地元の人間が地元を楽しみ、それを伝えていくことが、新たな観光資源の発見に繋がる。観光地をメインにした観光政策ももちろん大事だが、こうした草の根の活動こそ、地域の人たちを巻き込んだ「地域の再発見」を生んでいくのだ。
気になる次回だが、毎年1回開催される参加型ワークショップの祭典「いわきフラオンパク」でのサイクリング企画を予定しているという。いわきに住む人もそうでない人も、ぜひいわきの宝探しにご参加頂きたい。
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